とんど
 みなさんは、どんな地域で暮らしていますか。大都市の真ん中ですか、都会で働く人が多い「ベッドタウン」と呼ばれる町ですか、それとも、まだ自然がいっぱい残っている農村・漁村・山村でしょうか。
 また、皆さんの地域では、昔から地域に伝わる伝統行事はまだ行われていますか。伝統行事とは、その年に食糧(米など)を収穫できたことや、家族が無事に暮らせたことを地域の神様に感謝したり、お願いをする趣旨のものがほとんどです。夏祭りの盆踊りや秋祭りの神輿(みこし)や山車(だし・だんじり)などの巡行はそのひとつです。
 昔から地域に住む人が数多くいて、地域には老若男女(読めるかな?)がそろい、村の神社(「お宮さん」)を愛して大切にしているところでは、自然に伝統行事も残っているものだと思います。
 こうたろうとお父さんが住んでいる市はもともとは田んぼばかりの農村だったのですが、40年ほど前から少しずつ田んぼや畑が住宅や商業施設(スーパーやレストラン)に変わってきました。そして、今では専業農家もとても少なくなってしまいましたが、うれしいことに、昔から伝わる行事はまだ私たちの地域に多く残っていて、今後も受け継がれようとしています。
 今回、私たちの地域の伝統行事のひとつである「とんど」が平成17年1月10日に行われました。お父さんもその行事に参加しましたので、作業の合間に携帯電話で撮影した映像を使ってレポートします。

1.とんどを作る

 
小正月(毎年1月15日)に村の家から持ち寄った正月のお飾りや古いしめなわ、わら 竹などで「とんど」を組み立て、年間の無病息災、家内安全(健康で無事暮らせること)を祈願して焚きあげるのがとんど神事です。
 とんど神事の朝、実行委員会と消防団を中心に30人ほどの人が村の広場に集まります。まず、今年のとんどを倒す方向(恵方)を確認し、立てる位置を決めます。次に村の竹林から20メートル近い竹を50〜60本切り出し、広場まで運びます。この竹を自作の器具や番線、縄などを使って、篭のようなものを組み立てていきます。その中に家々から持ち寄られた正月のお飾りや古いしめなわなどを詰め、あらかじめ決められた家から供出されたわら100束でとんどを形作っていきます。

@とんどを立てる位置と倒す方角を調べる

A芯になる竹を選び、器具を使って固定する

B篭を組み立てて、周りにわらをつめていく

C篭の中に正月のお飾りやしめ縄を詰める

2.とんどを立てる

 そして、日中最大の見せ場である「とんど立て」です。太い竹、はしご、太鼓台、わらで編んだ引綱などを使って、村人が力をあわせて15メートル(重さは計ったことはないのですが1000キロ以上)にもなるとんどを立ち上げるのです。その作業を見守る人から歓声が沸くこともあります。(残念ながら、立て上げるシーンはお父さんも奮闘中のため、映像はありません…!)

D一番の力仕事とんど立てを前に、ちょっと休憩

E立ち上がったばかりの何となく不安定なとんど

F立ち姿を修正し、四方を引き綱で固定する

G今年のとんどは背が高く、まるで天を突くよう

3.人が集まる

 日が落ちると、村中を触れ太鼓が回ります(お父さんは、この仕事を担当)。その触れ太鼓を聴いて、村の老若男女数百人が広場に集まってきて、厄年の人の家族(奥さんやお母さん)が振舞う餅入のぜんざいをみんなで食べます。定刻になると宮司さんが登場し、祝詞(のりと・神様に祈る言葉)を読み上げると、神事の始まりです。

H地元消防団の消防車も活躍します

I子ども会のお母さん方が振舞うぜんざいは、とても体が温まります

J本番を前に、それぞれの仕事を確認するミーティングをします

K宮司さんが儀式をとりおこないます


4.クライマックス

 たいまつを持った村役たちがとんどに点火すると神事はクライマックスを迎えます。火は一気に15メートルのとんどを駆け上がります。広場に集まった人たちは、燃え上がる炎とパチン、パチンという竹のはじける音に数分間、魅了されます。やがて合図とともに、とんどは歓声の中、恵方に引き倒されます(このときの迫力というのはなかなかのものです)。落ちた火も味わいがあって、しばらく余韻に浸っている人もいます。家から持ってきた提灯のろうそくに火をとってこの落ちた火を持ち帰る人もいます。この火を使って小豆粥を炊くと一年間健康で過ごせるという言い習わしがあるのですが、カマドもない現代では持ち帰る人も少なくなりました。また、数年前の祝日法の改正から1月15日が休みではなくなったために、とんど神事はそれ以来、1月の「ハッピーマンデー」に実施されています。


Nいよいよ点火。緊張の一瞬です!

O火の高さは約15m。迫力十分です

P今年の恵方、庚(かのえ)の方角に倒します

Q今でも、とんどの火を持ち帰る人もいます

 5.伝統行事について

 地域の行事を守っていくということは、地域に住む住民みんなが交代で、少しずつ役割を分担しなければならないということなのです。「いやだな」「めんどくさいな」と思っていて関わっていては、そこには感動も心も生まれないし、感謝の気持ちも残りません。伝統行事や昔からの良い風習というものはなくなってしまうだろうと思います。
 私は、そういう意味でも、この行事をこれまで続けてくれた先輩たちに感謝したいと思いますし、この行事がいまだにできる地域を誇りに思っています。
 

R消防団や実行委員のメンバーは、皆が帰った後も、火が完全に消えるまで残ります

S最後の火

 とんどの準備をしているときに、こんな光景に出会いました。90歳近いおばあさんがとんどの準備の様子をうれしそうに見ておられました。そこに60歳過ぎの役員の方がゆっくりと近づいていって、こう言葉をかけていました。
「おばちゃん、来年もその次も、元気でとんどを見に来なあかんねんで!」


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